山階鳥類研究所研究報告
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オオセッカの現状と保全への提言
永田 尚志
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1997 年 29 巻 1 号 p. 27-42

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抄録

1.オオセッカについて過去に発表された文献をもとに,本種の分布および生態をまとめて,本種の保全についての提言を行った。
2.オオセッカは,宮城,東京,神奈川,埼玉,茨城,群馬,千葉,静岡,愛知,香川,徳島,兵庫の1都11県で越冬期に記録され,青森,秋田,宮城,茨城,千葉の4県で確実な繁殖記録があった。
3.今まで確認された生息地のうち,1993年現在,繁殖期の生息が確認されているのは,秋田県八郎潟,青森県内の屏風山地域,岩木川河口,高瀬川河口,仏沼周辺,北関東の利根川下流域,霞ヶ浦浮島湿原の7ヵ所で,およそ1000個体が現存すると推定されている。
4.オオセッカは,東北地方では4月下旬に渡って来る昆虫食の夏鳥で,一夫多妻の繁殖システムをもち,平均一腹卵数は4.88±0.62(30)卵であった。本種は,いずれの繁殖地においても,ヨシが混在し,下層にスゲやイが存在する2層構造をもつハビタットに生息していた。
5.オオセッカの個体群は大きく変動し,青森県八郎潟や青森県屏風山地域では減少し,青森県仏沼や岩木川河口では個体数は安定し,最近,利根川下流域や霞ヶ浦浮島では増加している。
6.非繁殖期にはヨシ原にひそみ観察しづらいため,越冬期の生態については詳しくわかっていない。
7.オオセッカは,本来,河川敷などの攪乱を受けているハビタットに適応し,好適なハビタットがあれば定着して短期間に高密度の個体群を形成し,ハビタットが不適になれば他の場所へと個体群を移していくという戦略をとっているのかもしれない。
8.オオセッカの保全上必要と考えられる個体群生態学,集団遺伝学および越冬生態についてのデータはまだ不足している。本種の越冬地や渡りの中継地をも含めた総合的な保全を行なっていく必要がある。

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