精密工学会誌
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イオンビーム支援蒸着法による窒化炭素膜形成におけるArイオン添加の効果
神崎 昌郎松室 昭仁村松 睦夫林 敏行山口 勝美
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1998 年 64 巻 1 号 p. 152-156

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抄録

イオンビーム支援蒸着法による窒化炭素膜の形成においてArイオンを添加し, 低温での窒化炭素膜の硬質化を検討した.また, 表面形状, 摩擦係数及び化学結合状態に及ぼすArイオン添加の影響を評価した.その結果, 以下のことが明らかとなった.
(1) プラズマイオン源に導入するArガスとN2ガスの流量比 (Ar1N2比) を増やすとともに窒化炭素膜中のAr含有量は上昇したが, Ar/N2比1において2at%程度であった.
(2) Arイオン添加によりスパッタリングが顕著となり, 窒化炭素膜の表面粗さは大きくなった.また, 基板温度を高くすることにより窒化炭素膜の表面粗さはより大きくなり, C-N揮発成分がガスとして脱離するため成膜速度は低下した.
(3) 成膜温度100℃以下では, Ar/N2比が大きい程窒化炭素膜の微小硬さは高く, 最大硬さは23GPaであった.すなわち, 低温での窒化炭素膜の硬質化にArイオンの添加は効果的であった.
(4) 成膜温度100℃以下では, Ar/N2比を大きくすることにより, 窒化炭素膜とSUJ2ボールとの摩擦係数は0.2程度に低下した.また, 荷重4.9NでのSiCボールとの摩擦においても窒化炭素膜は剥離することはなかった.それに対し, Ar/N2比1,500℃で形成した窒化炭素膜は荷重1.98Nにおいて剥離し, 摩擦係数は0.6程度まで上昇した.
(5) 窒化炭素膜のXPS Nlsスペクトルにおいて, Arイオン添加にともなう3次元的なC-Nクラスタの形成を示唆するピークシフト及び形状変化が観察された.この3次元的なC-Nクラスタの形成が窒化炭素膜の微小硬さ上昇, 摩擦係数低減の要因と考えられる.

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