1992 年 83 巻 5 号 p. 636-642
Metallothionein (MT) は低分子量の金属結合蛋白であり, 癌細胞内における抗癌剤不活化機構をもつことから, 薬剤耐性因子のひとつとして注目されている. MTと泌尿器科系腫瘍における臨床像との関連について検討した. 膀胱癌35例, 腎細胞癌10例および正常膀胱粘膜3例におけるMTの発現について, パラフィン包埋標本を抗MT抗体を用いて Avidine-biotin peroxidase complex method (ABC法) による染色を行い, 免疫組織学的に検討した.
膀胱癌35例中10例にMT発現を認め, 組織学的異型度の低いものに, 有意に発現率が高かった. また, 正常膀胱粘膜では全例に強いMT発現を認めた. 腎細胞癌では10例中8例にMTの発現を認め, 正常腎尿細管ではさらに強い染色性が全例に認められれた.
以上より, MT発現は, 正常の生体代謝と異なり, 異常増殖の盛んな低分化癌では減少することが示唆された. また膀胱癌に比べると腎細胞癌におけるMTの発現頻度は有意に高く, 腎細胞癌において膀胱癌よりも, 抗癌剤化学療法の効果が低い要因の一つであることが示唆された.