昭和医学会雑誌
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血液透析器の溶質除去特性と生体適合性
―透析器膜素材の影響について―
高橋 淳子
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1993 年 53 巻 5 号 p. 465-475

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抄録

血液透析に使用する透析膜には高い溶質透過性と適度な除水性能を持つ再生セルロースが使用されてきたが, 同膜の持つ強い補体活性化作用が, 種々の悪影響を生体に及ぼす可能性が指摘されている.補体活性化作用を減弱させるため, 同膜の補体活性基をアセチル化したcellulose diace-tate (CA) 膜や3級アミンで置換したhemophan (H) 膜などが開発された.一方, 補体活性化作用が軽度な合成高分子polymethylmethacrylate (PMMA) 膜が早くから実用化されている.しかし, PMMA膜においては, 同膜のもつ陰性荷電がリンなどの陰性荷電を持つ貯留物質の除去性能を阻害する可能性が懸念されている.そこでこれらの補体活性化作用の軽度な膜素材透析器使用時の溶質除去能と生体の反応 (生体適合性) を臨床的に比較検討した.10名の安定期血液透析患者に, in vitroの尿素クリアランスに差のないH, CA, PMMA膜透析器を同一条件下にクロスオーバーで使用し, 溶質除去能, 各種生体適合性の指標を検討した.溶質除去能では, BUN, クレアチニン, 尿酸のクリアランス・除去率に3種の透析器間で差はなかったのに対し, リンのクリアランス・除去率はPMMAで有意の低値を示した.またリンのクリアランスはHで最も高値であった.透析中の血球数の変化では, 白血球減少はHでCAに比し有意に高度であったが, 血小板数の変化に透析膜間の差はみられなかった.Thromboxane B2, 6-ketoprostaglandin F1αの変化に3膜間で差はなかったが, β-thromboglobulinの静脈側/動脈側濃度比は開始後30分でCA, PMMAに比しHで有意の高値をとった.透析中の顆粒球エラスターゼ上昇はPMMAで有意に高度であった.Hでは透析開始後30分のセライト活性化凝固時間の延長が軽度で, fibrinopeptide Aの上昇が高度であった.以上の成績から, リンの除去性能は膜表面荷電の影響を受け, PMMAでは強い陰性膜荷電によりリン除去能が低く, Hでは相対的陽性荷電から除去能は増加した.また生体適合性ではPMMAは強い顆粒球活性化作用を持つ.Hは陽性荷電から血小板活性化作用が強く, 陽性荷電が直接的にヘパリンを吸着し, 凝固系活性化をもたらすと考えられた.

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