1999 年 32 巻 10 号 p. 1305-1311
慢性血液透析 (HD) 患者で心肥大があり, 左室収縮機能の低下している症例は予後不良である.
今回, 心房性ナトリウム利尿ペプチド (ANP) ならびに脳性ナトリウム利尿ペプチド (BNP) がHD患者のいかなる心病態を反映しているか検討した. 対象は36名のHD患者で, 透析前後の検体からANP, BNPの血漿濃度を測定した.
ついで心臓超音波検査と123I-metaiodobenzylguanidine (MIBG) を用いた心筋シンチグラフィーを施行し, HD患者の心病態と血漿ANP, BNP濃度との関連性について検討した.
以下の結果が得られた. (1) HD患者のANP, BNPの血漿濃度は上昇していた. また透析後の血漿ANP濃度と血漿BNP濃度との間に正の相関が認められた. (2) 透析後の血漿ANP濃度は左室心筋重量係数 (LVMI) と正の, MIBG心筋シンチグラムより求めたH/Mと負の相関を認めた. (3) 透析後の血漿BNP濃度は左室拡張機能の指標であるA/E, LVMIと正の, 左室駆出率 (LVEF), H/Mと負の相関が認められた. またLVMI, A/Eに対する相関は血漿ANP濃度に比較して血漿BNP濃度で高度であった. (4) 透析後のBNP/ANPは血漿BNP濃度と同様にLVEF, A/E, LVMI, H/Mとの間に相関を認めたが, LVEFならびにA/Eとの相関は血漿BNP濃度に比較して高度であった. (5) BNP/ANPが3-5はLVMIは増大していたが, LVEFは比較的良好に保持されていた. しかしながらBNP/ANP5<はLVMIは増大し, LVEFも低下していた.
以上より, ANPに比較してBNPは左心機能を反映し, なかでもBNP/ANP 5<を呈するHD患者は高度な心肥大と交感神経機能低下が認められ, しかも左室収縮機能が低下していた.