医療マネジメント学会雑誌
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健康不安からの脱却と消費
真野 俊樹
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2003 年 3 巻 3 号 p. 569-575

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抄録

メディアに現れる健康・医学関連の記事・報道の増加が示しているように消費者の健康に対する関心が高まってきている。この理由にはいくつかあるが、医療が積極的に消費されず、で きれば消費を押さえたい財、すなわち否定財であることを考えると、むしろこの関心の増加は将来への不安の裏返しであるともいえよう。
医療の特徴は各個人が、将来を全く予測できないことにある。経済学者のArrowは、医療の財としての特殊性を、1) 医療が人間の基本的ニーズであること、2) 必要性と費用が予測できないこと、3) 情報の非対称性から説明している。
医療という財自体は消費者にとって、完全に信頼財であった。しかし、最近、医療の1部は経験財や探索財へ変化している。医療制度自体の信頼を揺らがすような改革や改革案はいたずらに不安を増す恐れがある。むしろ、トラブルが起きたときや失敗したときのセーフティネット論ではなく、もっと積極的な議論、すなわち医療を情報リテラシーや金融のような制度資本として再定義し、資本・資源を重点配分する施策の実行が必要ではないだろうか。健康に対する不安は日本のGDPの6割を占める個人消費への阻害因子となっている。消費活性化の鍵のひとつは、個人の将来の不安の払拭、なかでも健康を失う不安の払拭にあるのではなかろうか。2000年4月の介護保険の導入により、介護の社会化はある程度進行した。今後は医療、中でも高齢者医療制度を安定的なものにすることで、消費者の安心を確保するべきである。

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