2003 年 50 巻 3 号 p. 183-193
虚血性心疾患は米国において死亡原因の第一位であり,1999年の死亡者数53万人,内25万人は病院外死亡であり,そのほとんどは心突然死である。心突然死の内,以前より虚血性心疾患の症状を認めるものは半数に満たない。古典的危険因子(コレステロール,喫煙,血圧,糖尿病)は,明らかにリスクの高い者,また低い者を選別する上で有効であるが,大部分の者はどちらでもない中間層に分類されるため,一般住民を対象としたスクリーニング手段としては不十分である。これは,同一レベルの危険因子を有していても,危険因子への曝露期間,古典的危険因子以外の危険因子,遺伝子多型,遺伝子と環境因子との相互作用等の影響と考えられ,危険因子そのものよりも,危険因子への曝露の結果である潜在的動脈硬化所見を用ることで,より有効に発症予測,予防を行い得る可能性が検討されている。
電子ビームコンピュータ断層撮影(EBCT)による冠状動脈石灰化の測定は非侵襲的に冠状動脈の潜在的動脈硬化を定量出来,一般住民を対象とした虚血性心疾患の初回発症予防におけるスクリーニングの手段として,米国で注目されている。本論文では,EBCT の意義,また初回発症予防における EBCT の有効性を評価した疫学研究を概説した。EBCT は非常に有用である可能性があるものの,現状では,十分な結論が得られていない。
日本における虚血性心疾患死亡率は先進国の中でいまだ低いが,戦後世代である,30歳代,40歳代の男性に焦点を当てると,日米において,血圧,コレステロール値に関して大きな差はなく,また日本の喫煙率は米国の約 2 倍である。さらに,日本の剖検による検討からは,男性の20-30歳代で動脈硬化が増加していることが指摘されている。日本において,戦後世代の一般住民における,潜在性動脈硬化の程度を評価し,かつ,米国の一般住民と比較することは,日本の虚血性心疾患の今後の動向を予測する上で非常に重要であると考えられ,その評価手段として EBCT は非常に有用であると思われる。