中国の大気中PAHs汚染の実情を明らかにするため, 3都市 (北京, 銀川, 成都) で1998~2000年に採取した大気粉じん63検体と石炭関連試料8検体についてPAHs分析を行った。大気中23PAHsの総濃度 (Σ23PAHs) は北京323±431ng/m3, 銀川898±902ng/m3, 成都249±203ng/m3であり, 粉じん重量あたりのΣ23PAHsは各々, 545±592μg/g, 1135±1357μg/g, 566±321μ/gであった。中国の大気のPAHs濃度は岡山県の環境大気濃度レベルの35~450倍, サンティアゴの20~80倍, アルジェの17~61倍と高値であり, 重工業地域の影響を強く受けたシカゴ大気の濃度値と同程度であった。3都市のPAHs濃度プロファイル及び縮合環数別PAHsの総PAHsに占める比率では, 傾向を伴った季節変動を観測した。石炭燃焼の寄与が高い時4-ring PAHsの相対濃度が特徴的に高いが, 中国3都市の場合, 石炭燃焼の割合が高まる冬季に4-ring PAHsの相対濃度が上昇する傾向があった。環境大気中PAHsのbenzo [e] pyreneに対する相対濃度比 (BeP ratio) と特徴的なPAHs比 (molecular diagnostic ratio) を用いた解析から, 3都市の主要な発生源の影響を推定した。3都市とも共通して石炭燃焼の特徴が強く反映していたほか, 北京では自動車のパターン, 成都では火力発電所のパターン, 銀川では家庭で使用する小型ボイラーのパターンがそれぞれ特徴的であった。