2006 年 49 巻 3 号 p. 227-232
新生児聴覚スクリーニングでは, 母子の愛着形成の前に行われる難聴の告知が母親の不安を増幅し, これがスクリーニングを行うことの問題点であると考えられてきた。我々は, 岡山県聴覚検査事業の中で行われている保健師による訪問指導調査票を精査し, その結果をレトロスペクティブに解析した。訪問指導では, 母親の不安や心配に関する質問が行われ, 聴覚スクリーニング後の精密検査の有無が確認されていた。調査期間の間, 47346人のスクリーニングが行われ, そのうち248人がリファーと診断された。その中では171人の調査報告書が岡山県に報告されていた。この171人中では, 39人は不安を訴えたが, 39人中19人は合併する障害があり, 心配の中心はその他のより重篤な障害であった。16例は訪問指導の時点では診断ないしは受容の途上であり, 4例の片側例でのみ予想外の不安が見られた。育児放棄は多発奇形の一例に見られた。聴覚スクリーニング後の不安の頻度は一般の産後の不安と変わらないが, 日本における新生児聴覚スクリーニングの成功のためには, 不安や心配を最小限にする努力が必要である。