環境科学会誌
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IPCC排出シナリオ(SRES)にもとついた世界の食料必要量の長期推計
棟居 洋介増井 利彦
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2008 年 21 巻 1 号 p. 63-88

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抄録

 気候変動にともなう長期的な食料不安(Food Insecurity)の評価のためには,将来の社会・経済の発展パターンの違いを考慮に入れた空間的,時間的により詳細な需要サイドからの食料必要量の推計が不可欠である。本研究では,気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「排出シナリオに関する特別報告書(SRES)」の4つの社会・経済シナリオにもとついて,世界184力国・地域を対象に,世界食糧農業機関(FAO)の食料需給表96品目について一次生産レベルの食料必要量を1990年から2100年まで推計した。先行研究(棟居・増井,2006)では各国の栄養不足人口の割合を2.5%以下に担保するために必要な国レベルの食事エネルギー必要量を推計したが,本研究では,その結果と食料消費パターンの変化から各国の最終消費レベルにおける食料必要量を品目別に算定し,さらに食料のライフサイクルにおける家畜飼料,種子,食品加工原料などの用途,および廃棄物の発生を考慮に入れて品目別の一次生産レベルの食料必要量を算出した。さらに,各国の一人当たり所得のシナリオと一次生産レベルの食料必要量の推計結果をもとに,需要サイドから将来食料不安のリスクが高まる可能性があると考えられる国,地域の抽出を行った。 推計の結果,例えば穀物については,予測の基準年(1990年)における世界全体の国内消費仕向け量は17億4,000万トンであったが,世界全体の必要量は,高成長社会シナリオ(A1)および持続発展型社会シナリオ(B1)では,今世紀半ばにそれぞれ34億600万トン,34億2,600万トンでピークに達し,2100年にかけて26億5,000万トン程度まで逓減することがわかった。また,多元化社会シナリオ(A2)および地域共存型社会シナリオ(B2)では,今世紀末まで増加を続け,2050年にはそれぞれ39億800万トン,37億4,000万トン,さらに2100年には60億1,000万トン,40億3,000万トンにまで達することが予測された。また,予測期間を通して一人当たり所得の低い国ほど基準年からの食料必要量の増加率が大きい傾向が確認され,それらの食料不安のリスクが高まる可能性がある国の多くはサハラ以南アフリカ地域に集中することが示された。。

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