日本レーザー医学会誌
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原著
甲状腺微小癌に対する組織内レーザー焼灼法の研究
久保田 光博筒井 英光山田 雅恵今井 健太郎角田 佳彦前原 幸夫大谷 圭志井上 達哉平田 剛史一ノ瀬 修二石角 太一郎黒岩 ゆかり山田 公人臼田 実男古川 欣也奥仲 哲弥加藤 治文
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2008 年 29 巻 1 号 p. 5-11

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抄録

甲状腺微小癌に対する低侵襲治療としての経皮的組織内レーザー照射法の臨床応用の可能性を検討するために,摘出ヒト甲状腺および実験動物(ブタ)の甲状腺を材料に基礎実験を行った.830 nmの光を発振するダイオードレーザーを使用し,穿刺針を介して甲状腺組織内にファイバーを導入して組織内照射を行った.出力と照射量の変化による甲状腺の組織学的変化を検討するとともに,甲状腺組織内および表面温度の経時的変化を測定することにより,甲状腺隣接臓器への影響を検討し,甲状腺結節に対する至適レーザー照射条件を明らかにすることを目的とした.
ヒト摘出甲状腺に対する組織内レーザー照射実験では,平均壊死直径の最大径は1.7mm(先端部出力5W,照射量1500J)までに留まった.照射条件と形成される壊死径に相関関係は認めなかった.組織内温度は49℃まで上昇したが,甲状腺表面温度はいずれの出力でも変化を認めなかった.
ブタ甲状腺に対する組織内レーザー照射においては,出力2Wでは照射条件の変化と形成される壊死径に相関関係は認めなかった.一方,3W,5Wの出力では,照射量の増加に従って壊死の大きさは増大した.同じ照射量では,5Wと比較し,3Wでは大きな壊死を形成した(p<0.05).一方,照射時間を一定とすると,出力の違いによる壊死の大きさに有意差はなかった.平均壊死直径の最大値は12.3mm(先端部出力3W,照射量1500J)であった.甲状腺組織内温度はレーザー照射点から5mm(壊死に陥る点),10mm(壊死の境界点),15mm(壊死を来さない点)の部位で測定した.最高温度はいずれも照射開始後300秒で到達し,出力3Wでは順に160℃,80℃,54℃(照射開始時35℃),出力5Wでは154℃,64℃,46℃(照射開始時38℃)であり,3Wの方が高い組織内温度を示した.マクロ所見では壊死はファイバー先端部より紡錘形に形成され,出力3Wと比較し,5Wではファイバー先端部周囲組織の炭化が著明であった.サーモグラフィで計測した甲状腺表面の最高温度は,3Wの照射では38℃,5Wの照射では55℃まで上昇した.
ファイバー先端部出力3Wにてブタ正常甲状腺実質内で約300秒のレーザー照射を行うことにより,甲状腺組織の炭化や表面温度の上昇を生じることなく径1cmの壊死を形成することが可能であった.甲状腺微小癌に対して,経皮的に穿刺針を介して組織内レーザー照射を行う本治療法は,ポータブルであるダイオードレーザーを使用することにより,外来でも施行可能な低侵襲治療法となる可能性が示唆された.

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© 2008 特定非営利活動法人 日本レーザー医学会
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