2008 年 132 巻 3 号 p. 177-179
抗HER2療法の臨床導入,分子プロファイルに基づく治療設計,個別化の概念の導入によって,乳がんの治療は変わった.それまでともすればtry and errorに頼ってきた新規治療法開発は,標的を定め,対象を選び,標的療法を導入し予後の改善を図る,という治療戦略の有用性が立証されたことにより,標的療法と治療個別化を基本コンセプトとするようになった.さらには,集学的治療の概念の枠組みの中においてもそのコンセプトは十分成立することもわかってきた.標的療法,個別化コンセプトを集学的に用いることで,最大限の抗腫瘍効果を引き出し,毒性を抑制することが可能になってきている.今後も腫瘍特性に基づいた治療法開発の方向性は変わらないと考えるが,治療効果の発現には腫瘍細胞の特性だけでなく,宿主個別の要因が密接に関わることも最近指摘されるところであり,宿主条件を加味した個別化治療戦略というものがさらに求められている.