日本顎口腔機能学会雑誌
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筋萎縮性側索硬化症例における舌萎縮と嚥下時の食塊移送との関係
谷口 裕重大瀧 祥子梶井 友佳山田 好秋井上 誠
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2008 年 15 巻 1 号 p. 30-37

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抄録

本研究は筋萎縮性側索硬化症 (Amyotrophic Lateral Sclerosis, ALS) 患者の主症状のひとつである舌萎縮に注目し, 嚥下造影検査 (Videofluorography, VF) を用いて嚥下時の食塊動態を調べることにより, 舌萎縮の進行が嚥下機能に及ぼす影響を検討した.
被験者としてALS患者19名, 対照として健常高齢成人11名に対してVFを行った.検査時の被験試料として40wt/vol%硫酸バリウム溶液3mlを用いた.得られたデータより誤嚥の有無, 誤嚥・喉頭侵入のタイプ, 嚥下後の咽頭内食塊残留量, 舌骨挙上を嚥下開始の指標とした食塊移送時刻, 食塊通過時間を計測した.
VF画像より誤嚥の有無を評価した結果, ALS患者の中で誤嚥がみられたすべての症例において舌萎縮像が観察された.さらにALS患者の舌萎縮無群に対して, 舌萎縮有群では嚥下後の咽頭内残留量が多かった.誤嚥が認められなかったALS患者の舌萎縮有群と舌萎縮無群, さらに対照群を合わせた3群間で食塊動態を比較したところ, 舌萎縮有群ではクリアランスタイム, 食道入口部通過時間が有意に延長し, また嚥下反射開始前に食塊先端が咽頭最下端部に到達していた.舌の形態異常および運動不良などにより口腔内保持が困難および嚥下惹起遅延となった結果, 嚥下前に食塊が下咽頭まで流入していたことが原因と考えられた.以上より, ALS患者において舌萎縮がみられた場合, 嚥下関連運動機能の低下とともに咽頭内残留量が増加しさらに液体の咽頭内停滞時間が延長するために食塊の誤嚥もしくは喉頭侵入を起こす可能性が高いことが示された.

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