日本考古学
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弥生時代小形〓製鏡の生産体制論
田尻 義了
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2004 年 11 巻 18 号 p. 53-72

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抄録

小稿の目的は,主に北部九州から出土する小形〓製鏡を対象として,従来から述べられてきた一元的な青銅器生産体制に対し新たな方向性を示すことである。
須玖遺跡群において,青銅器生産が行われていたことについては,これまでの調査・研究から明らかにされている。また,青銅器生産が須玖遺跡群を中心として行われ,青銅器の生産と配布を管理する主体が存在したと想定されている。しかしながら,青銅器生産の証拠ともなるべき鋳型は,須玖遺跡群以外の周辺の遺跡からも多数発見されている。それら周辺における青銅器生産と,須玖遺跡群との関係を明らかにすることが,小稿の具体的な目的である。
対象資料として小形〓製鏡を選択したのは,北部九州に存在する数少ない有文の青銅器だからである。文様を持つことから,数多くの属性を取り上げることができ,結果として同笵関係や製作順序などが明らかになるからである。
小稿では,小形〓製鏡の鏡背面文様により鏡群を設定し,それぞれの出土分布を検討した。その結果,鏡群ごとに出土分布に偏りのある時期と,全体がまとまる時期に区分することができた。これらの時期による分布のあり方の違いから,小形〓製鏡の生産と流通の形態について考察した。すなわち,文様が豊富でバリエーションが認められる時期には,鋳型も須玖遺跡群以外から出土し,分散した生産と流通であるとし,画一的で規格性の高い文様の鏡群が製作される時期には,鋳型も須玖遺跡群から出土していることから,集約した生産体制であると結論づけた。このことから青銅器の生産と管理を行う主体が,常に安定していたのではないことが明らかとなった。また,生産量の検討から,終末期の青銅器生産について,集約した生産体制であっても生産量が減少していた可能性が高いとした。

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