日本考古学
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縄紋中期土器の文様割付の研究
小林 謙一
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2000 年 7 巻 10 号 p. 1-24

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抄録

縄紋土器,特に関東地方縄紋時代中期の土器は,その多彩な文様装飾によって知られている。その中でも,端正な五領ケ台II式,立体的で様々な装飾を華美に重ねる勝坂3式土器,画一化し次第に装飾要素を失っていく加曽利E式土器など,様々な顔を持っている。それらの特徴を捉え型式内容を解明する努力は,土器文化の時空間的整理や系統性を理解する上でも,またそれらの物質文化を生み出した縄紋人の精神性,土器製作の技術,装飾に対する認知を探る上でも,興味深い題材を与えてくれるものであり,現に多くの研究が重ねられてきた。
本稿では,土器装飾の施文過程を,文様のレイアウトを中心に,模式図的に整理する。特に,割付の施文過程の規則性と実際の施文実行結果の正確さ,または予定された区画数や割付位置との違いとして現れる「ゆらぎ」を,区画数,割付角度,口縁・胴部の一致の度合いなどをみることで検討する。
その結果,時期ごとに主流となる区画数,割付タイプが存在し,各土器文化における基準が存在することが確認される。同時に,各時期に基準から若干はずれるような割付の狂った土器も製作されている。五領ケ台式土器~勝坂2式土器は,口縁・胴部文様がともに4単位で構成され,比較的正確な割付がなされる割付タイプaが多い。勝坂3式から加曽利E1式土器は,変則的な割付タイプbなどがめだち,区画も2~6区画と多様で,3単位や5単位といった複雑な構成でも比較的正確に割付されるものがある。加曽利E3・4式土器の胴部文様は,ほぼ等間隔に成り行きに施文される割付タイプdが大半を占めるようになり,胴部文様は7~10以上の柱状区画が連ねられる構成となる。
割付ポイントの角度や区画の長さを測定した結果から,五領ケ台式,勝坂式土器ではトンボ状器具や縄などを用いて等角度に割付を行おうとしている傾向が認められる。勝坂3式の縦位区画土器や抽象文を配する土器では,結果としてはダイナミックな文様構成をとっているが,施文前に等角度に割付のマークを付けているものが認められる。加曽利E3・4式土器の胴部文様は,指にょる人体スケールなどを用いつつ,等間隔に施文していく施文過程が復元される。
土器割付の検討によって,縄紋土器の施文過程や土器生産システムの復元へとつながるであろう。

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