社会学評論
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新幹線振動対策制度の硬直性と〈正当化の循環〉
大門 信也
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2008 年 59 巻 2 号 p. 281-298

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抄録

日本では1970年代前半に公害反対運動を大きな契機として,公害・環境問題に対処する諸制度が形成された.これらが制定され30年を経た今日,その運用過程においてどのような問題が生じているのかを明らかにする必要がある.そこで本稿では,新幹線公害対策制度とそれをめぐる紛争事例を取りあげ,第1に,制度が硬直的に運用されることでどのような問題が生じているのか,第2に,なぜ硬直的運用が生じてしまうのかについて検討した.その結果,この制度が,技術的対策が可能かどうかに関する情報を重視する一方で,受苦が発生しているかどうかに関する情報を相対的に軽視して作られており,またその制度が硬直的に運用されることで,受苦の実態が看過され,地域からの制度の見直し要求が看過されている実態が明らかになった.こうした制度の硬直的運用は,直接的には,沿線に生じる受苦の把握が軽視され,本来手段にすぎない環境基準値の達成が目的化されることにより生じていることが確認された.さらにそれを恒常的に生じさせる構造的要因として,制度の運用の中心的な担い手である行政と専門家とが相互に正統性を付与しあう構造的関係が見出された.本稿ではこれを〈正統化の循環〉と呼ぶ.この問題を打破するためには,振動に関する審議会への公衆衛生学者の参与,制度運用の中での定期的な疫学的調査の実施等,幅広い受苦情報を意志決定過程に取り込む必要があると考える.

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© 2008 日本社会学会
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