2010 年 42 巻 10 号 p. 1335-1339
症例は79歳, 女性. 胸部圧迫感を主訴に来院し, 心臓超音波検査にて重度大動脈弁狭窄症(最大圧較差=146 mmHg, 弁口面積=0.41cm2)と診断された. 術前のCT検査において上行大動脈基部から弓部大動脈にかけて全周性の高度石灰化を認めたため, 通常の大動脈弁置換術は困難と判断し, apico-aortic bypassを選択した. 手術は右側臥位, 第5肋間開胸で行った. Bypassに用いるconduitは, (1)下行大動脈吻合用, (2)心尖部吻合用,(3)生体弁内挿用の3つのパーツとした. 最初に下行大動脈に人工血管を吻合し, 続いて, 心室細動下に心尖部の縫着を行った. この際, 心筋全層を貫くマットレス縫合の後, 人工血管周囲を連続縫合で補強した. 最後に, 人工血管間に生体弁を内挿した人工血管を吻合した. 術後経過は良好で, 翌日には抜管, 術24日目に軽快退院となった. 術後1年6カ月経過した現在, 症状は消失し, 合併症なく経過している. 同術式は, 通常の弁置換術が困難な大動脈弁狭窄症など, 症例によっては有用な術式となり得ると考えられる.