全日本鍼灸学会雑誌
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臨床体験レポート
顎関節症IIIa型に鍼治療を試みた1症例
転位した関節円板と随伴症状に対する効果
皆川 陽一伊藤 和憲今井 賢治大藪 秀昭北小路 博司
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2010 年 60 巻 5 号 p. 837-845

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抄録

【目的】鍼治療は、 顎関節症の保存療法としてよく用いられているが、 その多くが咀嚼筋障害を主徴候としたI型の報告である。 そこで今回、 関節円板の異常を主徴候としたIIIa型患者に対して鍼治療を行い、 症状の改善が認められた1症例を報告する。
【症例】19歳、 女性。 主訴:開口障害、 開口・咀嚼時痛。 現病歴:X-1年、 左顎に違和感が出現した。 X年、 口が開きにくくなると同時に開口・咀嚼時の顎の痛みが出現したため歯科を受診した。 診察の結果、 MRI所見などから顎関節症IIIa型と診断され鍼治療を開始した。
【方法】鍼治療は、 関節円板の整位と鎮痛を目的に外側翼突筋を基本とした鍼治療を週1回行った。 効果判定は、 主観的な顎の痛み・不安感・満足感をVisual Analogue Scale(VAS)で、 開口障害を偏位の有無で、 円板・下顎頭の位置や形態の確認をMRIにて評価した。
【結果】初診時、 顎の痛みを示すVASは52mmであり鍼治療を行ったところ、 2診目治療前には痛みの軽減がみられた。 4診目に一時的な症状の悪化が認められたが、 その後も治療を継続することで顎の痛みを示すVASが2mmまで改善した。 一方、 治療8回終了後のMRI撮影では関節円板の転位に著変はないものの運動制限と開口障害の改善がみられた。
【考察】顎関節症IIIa型に対する鍼治療は関節円板の整位はみられないものの転位した関節円板に随伴する症状を改善させる効果を有することが示唆された。

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© 2010 社団法人 全日本鍼灸学会
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