日本畜産学会報
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黒毛和種の比形質に関する線形性および正規性の仮定下で算出された遺伝的パラメータ値の性質
祝前 博明大山 憲二向井 文雄庄條 昌之
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1996 年 67 巻 11 号 p. 949-955

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抄録

黒毛和種の比形質およびそれらの成分形質に関して,線形性および正規性を仮定して遺伝的パラメータ値を算出し,比形質の表型価に基づく個体選抜を想定して,比および成分形質の遺伝的改良量を予測する上での比形質に関する当該パラメータ値の有効性について検討を加えた.対象とした比形質は,TDN効率(TDNE;増体量(WG)/TDN摂取量(TDNI))および粗飼料摂取率(RIR;粗飼料摂取量(RI)/総飼料摂取量(TFI))である.(共)分散成分の推定は,一分集団における662頭の直接検定牛の記録を用いて,縮約化個体モデル-REML法により行った.なお,検討に当たっては,成分形質に関するパラメータの推定値は現集団での真値に等しいと仮定した.TDNEに関する選抜により,線形性•正規性の仮定下では,WGおよびTDNIの集団平均はそれぞれ増加および減少すると予測され,真に期待される遺伝的変化の方向と一致したが,変化の量は,WGで過大評価されTDNIでは過小評価された.RIRに関する選抜を実施すると,実際にはRIおよびTFIの平均はともに低下すると期待されたが,線形性•正規性の仮定下では,RIの平均は上昇しTFIのそれは低下すると予測された.所与の仮定下で,比のテイラー展開に基づき定義されたパラメータ値を用いた場合にも,比および成分形質について実際に生じると期待される遺伝的変化は適切に説明されなかった.よって,TDNEおよびRIRについて線形性および正規性を仮定して個体モデルにより算出されたパラメータの値は,これらの比形質に対する選抜の結果を予測する上で的確な情報でない可能性が示唆される.なお,RIRに関する選抜により,両成分形質の集団平均がともに低下するとすれば,飼料摂取能力の最適化の観点から,望ましい現象でない可能性がある点に留意を要する.

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