抄録
岐阜県の深坂湿原で掘削された13 mのコア試料(最終氷期以降)を用いて珪藻分析を行った.珪藻化石群集解析から古環境変遷に関する以下の結果が得られた.最終氷期の3.0~1.2万年前, 水域は主に富栄養の中性~アルカリ性を呈するある程度の開水域をもった池沼を形成していた.その間の2.5~2.4万年前と1.6~1.5万年前には湿性植物が繁茂する高層湿原の池塘あるいは低層湿原を短期間形成していた.池沼を形成していた頃, 水域は比較的低水温であったことが示唆され, 湿原を形成していた時期は比較的高水温であったことが示唆される.これは最終氷期の気温変動と関連しているかもしれない.一方, 1.2~0.4万年前, 水域は湿性植物が繁茂する高層湿原の池塘あるいは低層湿原を形成していた.この時期, 水域は比較的高水温であったと推定され, これは完新世の温暖な気候を反映していると考えられる.本研究で, 気候変化と深坂湿原の形成との密接な関係が示唆された.