日本口蓋裂学会雑誌
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原著
口唇裂・口蓋裂患児の第I期矯正歯科治療終了時期における母親の心情とその構造
吉田 留巳佐山 光子朝日藤 寿一齋藤 功
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ジャーナル 認証あり

2011 年 36 巻 3 号 p. 158-165

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抄録

【目的】質的研究によって口唇裂・口蓋裂児の第I期矯正歯科治療終了時期における母親の心情と治療の意思決定過程を把握することにより,患児および母親・家族の立場にたった治療のあり方を見いだすことである。
【対象と方法】対象はA大学矯正歯科診療室で第I期矯正歯科治療を終了した口唇裂・口蓋裂児の母親6名とした。心理テストSTAIによる状態―特定不安の測定と半構造化面接を行い,録音した面接内容の逐語録をデータとした。データは文脈に分割して意味分析・解釈によるカテゴリー化を行い,統合してキーテーマとなる主要概念とその構造を導いた。
【結果】STAIの判定で対象から除外すべき強い不安傾向のあるものは認められなかった。母親の心情と治療の意思決定に関わるキーテーマは,児の出生に始まり,[戸惑いとショック],[情報の救い],[治療への期待と可能性],[母親としての自責感],[長期治療への期待と不安],[治療に対する親子の対立と説得],[担当医に対する信頼]の7テーマが抽出された。治療の意思決定は,[治療への期待と可能性],[長期治療への期待と不安],[治療に対する親子の対立と説得]が循環し,心情は[母親としての自責感]と[担当医に対する信頼]が併存する構造を示していた。
【結論】 [母親としての自責感]は,子どもに対して,治療に対して,苦痛に対してなど多岐に及ぶとともに治療の意思決定に深く関わり,長期治療と並行して消えることなく続いていく心情であると考えられた。[担当医に対する信頼]の心情は,長期治療への不安や母子関係について,母親の意思決定を支えていると考えられた。これらの心情は,各テーマが相互に関連し合いながら重層化した構造をもつと推察された。全人的な医療への新たな観点としては,こうした母親の心情と意思決定の構造を理解しインフォームドコンセントを基盤として継続的な支援体制を整備する必要性が示唆された。

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© 2011 一般社団法人 日本口蓋裂学会
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