家族社会学研究
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幸福に老いるために
家族と福祉のサポート
安達 正嗣
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2001 年 13 巻 2 号 p. 62

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抄録

高齢者と家族に関する研究をしていると, 「どうすれば高齢期に幸福な家族生活がすごせるのか」といった問いかけをされるときがある。家族社会学者がこうした問いかけに十分に答えてきたとはいえず, 家族を客観的に研究しているのだから安易に返答すべきではないという意識も強かったように思える。しかし今後は, 研究成果の社会的還元が重要視される傾向にあり, 論文や学術書としての公表だけではなく, 高齢期の家族生活への具体的な対応策を提示する必要性に迫られることになるであろう。
本書は, 先の問いへの1つの答え方を示してくれる貴重な文献である。これは, サクセスフルエイジングがいかにしたら可能になるのかを探求した専門書であり, 3部構成になっている。
第1部は, 高齢者研究の課題と方法を検討した序論的部分である。まず第1章では, 「幸せな老後は何によってもたらされるのか」の分析に必要な概念や方法を既存研究から整理し, 全体的な分析枠組みを図式化している。第2章では, 「家族・親族は高齢者の扶養に対して, どのような役割を果たしているか」という問題設定から, 高齢者のサポート研究の歴史を総括して, 家族・親族の手段的サポートが依然として大きな役割を担うことを指摘する。第3章では, 「だれが, どこで, 高齢者を介護するのか」について, 社会的な介護の必要性を強調しながら, 重い金銭負担への覚悟にも言及している。
第2部は, データ分析から「幸福に老いるための条件」を追求するものである。第4章では, 子どもの同居と友人との関係による幸福感への寄与を検討して, 男性は友人, 女性は親族という男女差を見いだしている。第5章では, 余暇活動は幸せをもたらすのかについて, 外出行動が高齢者のモラール向上に寄与することを示し, 外出しやすい町づくりを提言する。第6章では, 子どもとの関係と幸福感について探り, とくに病弱やひとり暮らしの場合に大きな影響を及ぼすとしている。第7章では, 夫婦関係と幸福感をめぐって, 配偶者喪失の体験がその後の大きなストレス源になることを明らかにしている。
第3部は, サポートの問題を記述的に扱っている。第8章では, 高齢者の家事負担と家事援助について, 家事が圧倒的に妻の負担であることを示し, 家事が不可能になったときの配食サービスの情報源の問題を考える。第9章では, サポートの連携を探り, まだインフォーマルサポートが中心であると指摘する。第10章では, 子どもからのサポートについて, 高齢者が依存と自立の問で揺れることなどを明らかにしている。第11章では, 高齢者の介護意識について, 家族介護に不安を抱いて施設を選択していくと予測する。最後の第12章では, 筆者がこれまでの分析結果を解釈して自らの意見を展開している。とくに, 高齢者が問題解決に積極的に立ち向かうことの重要性を強調している点は, 印象的である。
いずれの章でも, 筆者の参加してきた東京都老人総合研究所や文部省科学研究費補助金などによる調査研究の成果が随所に活かされ, 科学的データの分析に基づく社会的な提言が行われている。研究者のみならず, 行政関係者や一般の人びとにも, ぜひ推薦したい1冊である。

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