システム農学
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研究論文
わが国の肉用牛肥育生産における牛肉中の放射性セシウム濃度と排泄量を予測するモデルの開発
広岡 博之
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2012 年 28 巻 1 号 p. 9-17

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抄録

東京電力福島第1原子力発電所の事故によって放出された放射性セシウムの粗飼料から牛肉への移行と排泄量を予測するためのシミュレーションモデルを開発した。このモデルは、牛肉(枝肉中の筋肉と脂肪量)中の放射性セシウム濃度と生時から出荷までの生涯の累積放射性セシウム排泄量を予測することができる。本研究では、2 種の移行係数(平均値と上限値)を仮定し、子牛期の飼料の放射性セシウム汚染状況や肥育期における粗飼料における放射性セシウム濃度が、牛肉中の放射性セシウム濃度や累積放射性セシウム排泄量に及ぼす影響を調べた。ベース条件として平均1日当たりの増体量を0.7 kg、市場出荷体重700 kgの肥育を想定し、異なる飼養オプション(肥育時の平均1日当たり増体量を0.8kg に増加し、早期650 kg の体重で出荷)についても調べた。分析の結果、日本政府の粗飼料中のセシウム濃度の制限(子牛期は5000 Bq/kg、肥育期は300 Bq/kg)下では、いずれの条件でも市場出荷時(700 kg)の牛肉中の放射性セシウム濃度は規制値(500 Bq/kg)を大きく下回ることが示された。また長期に及ぶ肥育期間のおかげで、子牛期における飼料の放射性セシウム汚染状況は、出荷時の牛肉の放射性セシウム濃度にほとんど影響のないことが明らかになった。しかし、子牛期の許容量に相当する高い放射性セシウム濃度の粗飼料が給与された場合には、移行係数の上限値を仮定した場合、牛肉中の放射性セシウム濃度は400 Bq/kg を超え、暫定規制値の80%以上になることが示唆された。他方、粗飼料中の放射性セシウム濃度が許容値以下であっても、生涯における累積放射性セシウム排泄量は大きく、その取り扱いには十分に注意する必要のあることが示唆された。

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© 2012 システム農学会
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