1987 年 60 巻 10 号 p. 643-666
本研究は,わが国の代表的な火山山麓の1つである浅間山南麓斜面を事例に,農業生産地帯の垂直的配列を,標高に伴う土地利用構成の変化に着目して実証的に解明しようとしたものである.その結果,浅間山南麓斜面の農業地域は,標高750m以下の低位農業生産地帯,標高850mから1,210mの耕境に至るまでの高位農業生産地帯および両者の移行部にあたる中位農業生産地帯の3つからなることが判明した.農作物の種類は,低位農業生産地帯では水稲に果樹類(とくに巨峰・ネクタリン・クルミ)と野菜類が組み合わさっているのに対し,高位農業生産地帯では野菜類を中心に飼料作物,花卉一苗木類,水稲が加わった形態をみせている.そして中位農業生産地帯では,低位農業生産地帯で卓越する巨峰やネクタリンが急激に減少する一方で高位農業生産地帯で卓越する飼料作物や花卉一苗木類が加わり,さらに桑や加工トマト・薬用人参に代表される工芸作物がここに分布ピークを形成するため,漸移的で多様な作目構成となっている.水稲と野菜類は3つの農業生業産地帯で認められるが,両者の比重は農業生産地帯により異なっている.また,果樹類と工芸作物は低・中位農業生産地帯,飼料作物と花卉一苗木類は中・高位農業生産地帯に集中して分布している.