2012 年 68 巻 7 号 p. III_285-III_296
石巻沿岸域では東日本大震災以降,下水処理場で活性汚泥処理が行えない状況が続いたため,水や水産養殖物の喫食に由来する健康被害が懸念されている.本研究では石巻沿岸域において,健康被害の重要因子である腸管系ウイルス及び指標微生物の定量的検出を試みた.ウイルス濃縮法として,従来の小容量法と新たに開発された大容量法をそれぞれ用い,ウイルスの陽性率及び検出濃度を比較した.内部標準を用い,ウイルス核酸抽出及びRT-qPCRの効率をそれぞれ評価した.アイチウイルス,GII-,GIII-F特異RNAファージが特に高濃度かつ高頻度で検出された.さらに,ウイルス性胃腸炎の主要因であるノロウイルス,サポウイルスも検出された.下水処理場からの放流後,ウイルス及び指標微生物が,海水による希釈を受けながら水平方向及び鉛直方向へ拡散する様が観察された.大容量ウイルス濃縮法は小容量法と比較し,高いウイルス/ファージ陽性率を示したが,RT-PCR阻害が生じやすかった.RT-PCR阻害の原因物質は,254 nmの紫外光を吸収する高分子(>10 kDa)有機物であると推定された.本研究により,石巻沿岸域での病原ウイルス分布が明らかとなるとともに,RT-PCR阻害の効率的な軽減手法の必要性が示唆された.