日本海水学会誌
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ノリ養殖に被害を及ぼす大型珪藻Coscinodiscus wailesiiの現存量と沈降速度
小野 哲一見 和彦多田 邦尚
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キーワード: 沈降速度, 珪藻類, 栄養塩
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2006 年 60 巻 4 号 p. 253-259

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抄録

播磨灘および志度湾湾口部の海水を用いてCoscinodiscus wailesiiを初めとする瀬戸内海東部海域で頻繁に観察される珪藻類11種の沈降速度を測定し, 栄養塩濃度との関係とこれらの珪藻類の沈降による生元素の鉛直輸送過程について調査, 研究を行った. また同海域から単離した培養株についても沈降速度を測定した. 観測期間中, 低水温期にC. wailesiiの2度にわたるブルームが認められ, 水柱内の積算Chl a現存量に対するC. wailesii由来のChl a現存量の割合は最大で66%に達した. SETCOL法を用いて沈降速度を測定した結果, 現場海水中のC. wailesiiの沈降速度は0.75~4.19 m/dayであり, 他の珪藻類よりも高い値を示した. 培養株においてもC. wailesiiの沈降速度は2.12, 1.79m/dayと, 他の珪藻類よりも高い値となった. 大型で栄養要求量も大きいC. wailesiiは他の珪藻類よりも栄養塩制限を受けやすく, 本種は栄養塩制限を受けると通常の10倍以上の沈降速度を示すことが知られている. 従って, 低水温期に大増殖し優占種となるC. wailesiiは, ブルーム時に表層水中の大量の栄養塩を消費し, もともとその沈降速度が大きいうえに, 栄養塩制限などの生理状態の変化によって自身の細胞をより速く沈降させ, 生元素を底層へと輸送していることが考えられた. そのため本種の低水温期における2度にわたるブルームは生元素の鉛直輸送さらにはその循環に大きな役割を果たしていると考えられた.

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