1996 年 42 巻 6 号 p. 1059-1062
10年以上放置され, 左側へ大きく偏位して存在した正中頸嚢胞症例を報告した. 正中頸嚢胞は甲状舌管の遺残組織から発生する嚢胞であるため, 通常, 前頸部正中に出現し, 左右へ偏位するのは約15%程度といわれており, 2cm以上偏位するのは稀とされている. 今回の症例は嚢胞が胸鎖乳突筋に沿つて存在しており, 術中所見からは側頸嚢胞と考えたが, 病理組織検査の結果, 嚢胞壁内にリンパ組織は認めず, 正中頸嚢胞と診断した. 嚢胞は舌骨の正中から左側へ3cm離れた部分にやや強く癒着しており, その大きさも7cm×7cm×8cmと文献的にも最大級に属する稀な症例と思われる.