日本薬理学雑誌
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神経細胞障害性ストレスに対する生体応答
『グルタミン酸とミトコンドリア』 グルタミン酸神経毒性を規定するミトコンドリア因子
宝田 剛志福森 良米田 幸雄
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2013 年 142 巻 1 号 p. 13-16

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抄録

脳梗塞発症時には,梗塞部位における細胞外グルタミン酸(Glu)濃度の異常な上昇に伴って,N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体の過度の活性化を介する遅発性神経細胞死が引き起こされる.動物実験では脳虚血負荷後に海馬CA1領域および扁桃体に限局する遅発性の神経細胞脱落が観察されるが,この脳内部位選択的な脆弱性の出現機序は未だ明らかにはなっていない.我々はこの選択的脆弱性を引き起こす“障害因子”の探索を行ってきたが,最近ミトコンドリアでのエネルギー代謝調節に重要な役割を果たすアンカップリングプロテイン(uncoupling protein:UCP)の一つであり,かつミトコンドリアにCa2+を輸送するユニポーターの候補分子であるUCP2が,選択的に海馬由来神経細胞で高発現する事実を見出した.さらに,培養神経細胞にレンチウイルスベクターを用いてUCP2を過剰発現させると,Glu神経毒性が著明に増強されることが明らかとなった.また,NMDA受容体を人工的に発現させたHEK293細胞を使用した解析では,UCP2がNMDA曝露に伴うミトコンドリア内Ca2+流入を選択的に促進させるだけでなく,この際にはNMDA受容体とUCP2が相互作用する可能性を確認した.一方,エタノールの薬理作用出現に,NMDA受容体活性化後のUCP2を介するミトコンドリア内Ca2+流入が関与する可能性を見出した.本稿では,我々の上記研究成果を踏まえて,Glu神経毒性におけるミトコンドリア因子の関与に関する新知見を紹介したい.

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