2013 年 54 巻 1 号 p. 93-104
近年の理科教育では,アーギュメンテーションに焦点を当てた研究が注目され始めている。そこでは,学習者が反論を行うことを意図的に促進することが重要であると指摘されている。この重要性を踏まえて,反論を促進するための教授方略が提案されている。しかし,日本の理科教育では,反論に着目した教授方略はほとんど見受けられない。そこで本研究では,小学校の理科授業を事例として,Osborneらの提案したIDEAS教材の教授方略が,反論を含むアーギュメンテーションを促進する上で有効かどうかを実践的に検証することを目的とした。
本研究ではまず,IDEAS教材の示した教授方略を概観した。次に,教授方略が反映された理科授業を,小学生を対象に実施した。さらに,授業で収集したアーギュメンテーションの発言記録を評価し,教授方略の有効性を明らかにした。評価の結果,反論を含むアーギュメンテーションをできるようになった学習者の人数が,授業の最初から最後にかけて有意に増加した。このことから,IDEAS教材の教授方略は,一定の有効性があることが明らかになった。しかし,授業の最後においても,反論を含むアーギュメンテーションができない学習者が少なからず見受けられた。この点から,教授方略を改善していくことが今後の課題として見出された。