ファルマシア
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最前線
ホタル生物発光型in vivoイメージング標識材料の創製
牧昌 次郎
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2014 年 50 巻 2 号 p. 117-120

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抄録

ホタルは世界的には約2,000種類棲息しているといわれ,日本では46種類が確認されている.幼虫期はすべて発光が確認されているが,成虫でも発光するのはこのうちの21種であり,幼生期に水棲のホタルは国内ではゲンジとヘイケ,クメジマの3種が確認されている.その他は陸棲である.水棲のホタルは世界的にも珍しいようだ.
ホタル生物発光は,ホタル発光酵素(ルシフェラーゼ)と有機化合物のホタル発光基質(ルシフェリン),酸素,ATP,マグネシウムイオンがかかわる化学反応である.またホタルの発光色は,黄色く見える560nm程度の光である.ホタルは成虫になると摂食しなくなる.ホタルの光は「命の光」であり,そこにも日本人の琴線に触れるはかなさがあるのかもしれない.ホタルの光は「冷光」といわれ,高い発光効率(41%)のため発熱を伴わない光である.
ホタル生物発光系は,ライフサイエンス分野での標識技術として基盤的な技術になっている.最近は,脳神経学や腫瘍学,再生医療の実用化にかかわる技術として,in vivoイメージングが注目され,生体内深部可視化に資する長波長発光材料のニーズが国内外で非常に高くなっている.そこで筆者はホタル生物発光型長波長発光材料を創製し,実用化(国内外に販売)した.以下に,その経緯をまとめる.
1.なぜ発光するのか
「ホタルは何のために光るのか」は,現在のところ,結論は出ていないようである.雌雄の出会いや,互いのコミュニケーションなど,諸説ある.ここでは,その1つを紹介する.
太古の地球は現在のような環境ではなく,その環境で生きていた生物にとって,急激に増加してきた酸素は「毒」であったと考える「酸素解毒説」である.発光機構が既知の生物発光では,発光に酸素が必要である.体内の酸素を効果的に除去する化学反応機構として,発光反応があると考える説である.
2.ホタル生物発光機構
ホタルの生物発光機構は,図1に示すようである.ホタル発光基質:ルシフェリン(1)が発光酵素内部でATPと反応して,ピロリン酸(PPi)が脱離し,発光基質はAMP化され活性化体2となる.その後,続けて酵素内部で酸素と反応し,不安定な高エネルギー状態のジオキセタノン3となり,これが二酸化炭素を放出・分解することでオキシルシフェリン4の励起状態が生成する.4の励起状態から基底状態へ失活する際に放出される光が「ホタルの光(ca.560nm)」である.また,発光基質を有機合成する時にはD-システインを使う,このため天然発光基質をD体と呼称することもある.L-システインから合成した光学異性体(L体)は,発光活性がないのみならず,強く発光を阻害する.

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© 2014 The Pharmaceutical Society of Japan
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