日本透析医学会雑誌
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症例報告
透析液重炭酸濃度の低減により透析中のCO2ナルコーシスを防げた高齢の慢性高CO2血症の2例
緒方 愛衣島田 典明田中 景子三小田 亜希子井出 陽子金 仁毅西川 真那澤田 真理子木野村 賢福島 正樹浅野 健一郎
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2014 年 47 巻 3 号 p. 209-215

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抄録

 透析液重炭酸濃度の低減によりCO2ナルコーシスを防ぎ血液透析 (HD) を継続できた高齢透析患者の2例を報告する. 症例1は77歳女性. 糖尿病性腎症による慢性腎不全でHD歴5年. HD施行中にCO2ナルコーシスをきたし, HDを中断し非侵襲陽圧換気療法 (NPPV) を開始した. 次のHDでは透析液重炭酸濃度を30mmol/Lから25mmol/Lに変更したが, HD中にCO2ナルコーシスがみられHDを中断した. 重炭酸濃度を22mmol/Lまで低減したところCO2ナルコーシスをきたすことなくHDを継続できた. 症例2は76歳女性. ANCA関連腎炎による慢性腎不全でHD歴1年半. HD中にCO2ナルコーシスを認め, HDを中断しNPPVを開始した. その後, 透析液重炭酸濃度を22mmol/Lに調節したところHD中にシャント血CO2濃度の増悪をきたすことなくHDを継続できた. 2例とも生活活動度の低い, るい痩のある高齢透析患者で慢性の高CO2血症がみられており, 呼吸筋力低下による換気障害が考えられた. HD中にCO2ナルコーシスをきたしたが, 機序としては, 重炭酸負荷により血中CO2は上昇する (HCO3+H+⇒H2CO3⇒CO2+H2O) がCO2排出障害のため高CO2血症を是正できないことや, 急激な重炭酸負荷による呼吸抑制が考えられている. 慢性の高CO2血症の症例ではHDによる急速なアルカリ化により呼吸状態が悪化することが懸念される. 本症例では透析液重炭酸濃度の低減によりHD中の高CO2血症の増悪は認めず, 代謝性アシドーシスの悪化をきたすことなくHDを継続することができた. 呼吸性アシドーシスと代謝性アシドーシスの併存例でHD中にCO2ナルコーシスをきたす場合には透析液重炭酸濃度の低減は有用な手段と考える.

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© 2014 一般社団法人 日本透析医学会
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