日本繁殖生物学会 講演要旨集
第106回日本繁殖生物学会大会
セッションID: OR1-38
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生殖工学
piggyBacトランスポゾンを用いたナイーブ型ウシiPS細胞の樹立の試み
*川口 高正築山 智之南 直治郎山田 雅保松山 秀一木村 康二今井 裕
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抄録

【目的】人工多能性幹細胞(iPS細胞)などの多能性幹細胞は,高度な育種改良・効率的な家畜生産への利用が期待される。その際,多能性幹細胞が個体形成能を有することが必要となるが,齧歯類以外において個体形成能を持つ多能性幹細胞樹立に関する報告はほとんどない。その理由として,齧歯類以外の種で樹立されている多能性幹細胞の多くは,個体形成能に乏しいヒトES細胞様の細胞株であることによると考えられる。そこで本研究では,ウシにおいて,高い個体形成能を持つことが期待できるマウスES細胞様(ナイーブ型)のiPS細胞(biPS細胞)の樹立を試みた。【方法】妊娠50日齢の胎仔から採取した羊膜細胞に,Oct3/4Sox2Klf4およびc−Mycの転写因子を,piggyBacトランスポゾンベクターを用いて導入した。このベクターには,ドキシサイクリン(Dox)添加の有無によって,導入した転写因子の発現が制御できるシステムを組み込んだ。Doxの添加から4日後,遺伝子導入後の細胞をフィーダー細胞上へと移し,幾つかの細胞分化シグナル阻害剤の存在下で培養した。【結果】Doxの添加から2週間後,明確な細胞境界を示すコロニーが出現した。このコロニーを継代すると,マウスES細胞様の球形でコンパクトな形態を示すbiPS様細胞が得られた。得られた細胞は,トリプシンにより単一細胞に分散しても10回以上継代を行うことができた。また,幹細胞マーカーであるアルカリフォスファターゼ活性を示し,多能性関連遺伝子(OCT3/4NANOGESRRβREX1)の発現が認められた。biPS様細胞をJAK阻害剤の存在下で培養すると,細胞の増殖率が低下したことから,その細胞増殖はLIF/STAT3シグナルに依存していることが示唆された。さらに,低接着ディッシュ上で数日間浮遊培養し,分化を促すと,胚様体を形成し,三胚葉へと分化した。これらの結果から,得られたbiPS様細胞株はナイーブ型細胞の特徴を示す高度な多能性を有する幹細胞である可能性が示唆された。

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© 2013 日本繁殖生物学会
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