積雲の形成に地表面状態は少なからず影響する.灌漑農地について着目すると,衛星観測によるリモートセンシングや気象モデルを用いて,中国Hetao地域における灌漑農地が雲発生を抑制する可能性が指摘されている.そこで本研究では,石狩平野を対象として水田が積雲形成に与える影響を分析した.
まず,気象衛星 MTSAT の画像の解析により画像解析により石狩平野の雲発生頻度を分析したところ,水田地域と周辺地域で雲発生頻度の特性に違いが表れた.
次に,数値気象モデル CReSiBUC を用いて,水田の土地利用を変更した数値実験を行った.その結果,水田を畑地に変更した実験では石狩平野北部で積雲が形成された.これは,顕熱輸送が増加し収束が強化され上昇流が発生したためだと思われる.水田を裸地に変更した実験では,同様に顕熱輸送は増加したが,積雲の形成状況は変化しなかった.これは,粗度が小さいために地表面風速が強まり収束域が形成されなかったと推測している.なお,水田の土地利用を変更すると潜熱輸送が減少し地表面付近の水蒸気混合比は減少したが,高度 600 m の水蒸気混合比は各実験で差が見られなかった.よって,本研究の事例では水蒸気の供給源としての水田の働きは小さいと考えられる.したがって,水田は地表面付近の熱的環境を変化させることで積雲の形成に影響を与えていると考えられる.