理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1547
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理学療法基礎系
メンタルプラクティスによる大脳皮質血流量の変化について
加藤 誠山口 智史横山 明正田辺 茂雄大高 洋平近藤 国嗣大須 理英子
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抄録

【目的】
メンタルプラクティスとは,実際の身体的運動を伴わず頭の中で繰り返し運動を想起する方法である.近年,メンタルプラクティスによる脳卒中片麻痺患者への治療効果が報告されており,随意的な運動が難しい患者に対して,身体的な負荷を増加することなく中枢レベルでの運動を反復できる有効な治療手段の1つと考えられている.しかしメンタルプラクティスが大脳皮質に及ぼす影響については報告されているが,近赤外線分光法においては十分に検討されていない.そこで本研究では近赤外線分光法を用いて脳血流量を測定し,随意運動とメンタルプラクティスにおける違いを検討した.
【方法】
対象は本研究の内容を十分に説明し同意を得た健常成人9名(平均年齢29.9±5.7歳,男性7名,女性2名)であった.局所脳血流の測定には,近赤外線分光装置(島津製作所製FOIRE-3000)を用いた。プローブは国際10ー20基準電極法に基づく基準Czを中心に,C3,C4を含む20チャンネルを設置し,酸素化ヘモグロビンの変化をサンプリング周波数6.3Hzで記録した.被験者は座位にて閉眼し,肘掛に前腕を置き安楽な状態で計測した.実施課題は左手関節最大背屈運動とし,すべての被検者は随意運動と同様の運動のメンタルプラクティスを行なった.プロトコールは安静15秒,課題30秒,安静15秒の計60秒を1サイクルとして,それぞれ5回繰り返した.課題試行時には,音信号に合わせて3秒間の左手関節最大背屈位と3秒間の安静を繰り返し行なうように指示した.データ解析は,まず安静時と課題中の変化量の比較として,サイクル毎にそれぞれの酸素化ヘモグロビン変化量の平均値を算出した.次に課題間の比較を行った.安静時の酸素化ヘモグロビン変化量の平均値と標準偏差を基準として課題中の測定値を標準化した値を算出した.なおそれぞれデータの信号対雑音比が十分でないものは対象外とし,3-5サイクルのデータを加算平均し,さらに課題中の平均値を求めた.解析部位は,右側の一次運動野周辺とした.統計処理は対応のあるt検定を用い,有意水準は5%とした.
【結果および考察】
随意運動及びメンタルプラクティスで,安静時と比較し酸素化ヘモグロビン変化量は有意に増加した.これはメンタルプラクティスにおいても一次運動野の脳血流量の増加を起こすことが可能であり,有効な治療手段であることを示唆していると考えられる.しかし随意運動は0.82±0.12,メンタルプラクティスは0.59±0.06で,両課題に有意差を認めた(p<0.05).今回の課題で行った手関節背屈運動のような単純運動のメンタルプラクティスでは,随意運動と比較し十分な一次運動野における脳血流量の増加が起こらない可能性があると考えられる.今後,課題の選択および脳卒中片麻痺患者を対象とした検討を行っていきたい.

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© 2008 日本理学療法士協会
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