沈み込み帯からマントル深部へ物質が移送される際,その化学組成は,共存する流体との間での元素分配を経て変化するが,その化学進化の過程は必ずしもよくわかっていない.本研究では,沈み込む地殻物質に特徴的であり,かつ流体が関与する過程での移動性が高い元素(ホウ素)に注目し,コクチェタフ超高圧変成岩に産する電気石のホウ素同位体組成を検討した.
コクチェタフ産の電気石には,より低変成度の泥質変成岩に産するNa電気石と,最も変成度が高い含ダイアモンド岩の産地にのみ産するK電気石がある.前者のホウ素同位体組成が10Bに富んでいるのに対して,後者のそれは11Bに富んでいる.地殻物質のみをホウ素の貯蔵庫とする従来のモデルでは,K電気石のホウ素同位体組成を説明できない.そこで,そのホウ素同位体組成が,沈み込んだリソスフェリックマントル中の蛇紋石に由来するという新たなモデルを提案する.