Moは酸化還元状態に鋭敏に反応して存在状態が変化する.この変化は同位体組成にも反映される.このため,Mo同位体分析によって,濃度分布だけでは分からなかった元素の起源を明確にし,海洋,大陸,河川,堆積物などの間の物質フラックスをより正確かつ精密に評価することが可能になる.また,古代の強還元的堆積物のMo同位体分析によって古海洋環境復元が期待される.我々は,キレート樹脂TSK-8HQカラム予備濃縮法とMC-ICP-MSを組み合わせた従来より精度,確度に優れた海水,陸水Mo同位体分析法を開発した.この分析法を,酸化的な海洋,河川,湖だけでなく還元的環境,汽水域などに適用し, Moの挙動やその同位体分別メカニズムを明らかにして,Mo物質循環の全容を理解することを目指している.