日本公衆衛生雑誌
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民生委員からみた家庭内での高齢者虐待の現状
佐佐木 智絵赤松 公子陶山 啓子前神 有里
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2008 年 55 巻 9 号 p. 640-646

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抄録

目的・方法 愛媛県独自の高齢者虐待システム構築に向けて現状を把握する目的で,2005年に介護保険サービス事業者および保健・医療サービス機関に所属する職員,自治体職員,民生委員を対象に調査を行った。今回は民生委員に行った調査について報告する。愛媛県内の 5 地方局管内から 1 市町を選定し,その地域の民生委員274人を対象に郵送法による質問紙調査を行った。
結果 191人から有効回答を得られた。虐待事例を把握していると回答した民生委員は13人(6.8%)であった。11人の虐待事例は,介護保険などの在宅サービスを利用していないという結果であった。虐待の内容は,『精神的虐待』が最も多く,次いで『経済的虐待』,『介護・世話の放棄・放任』であった。虐待事例への対処としては,『被虐待高齢者の気持ちの理解』,『虐待者以外の親族への理解・協力』,『見守り』が多く,対処が困難だった点に関して『家庭内の問題に外から係わることがはばかられる』,『自分がどのように係わればよいか分からない』という回答がみられた。自由記載からは,民生委員が様々なジレンマを抱えながら地域の高齢者虐待と向き合おうとしていること,民生委員を含めた地域住民の虐待に対する知識や認識の不足があること,虐待への対処よりも予防が大切であり,そのためには地域や家族の道徳観の向上や高齢者の役割拡大が必要であると考えていることが明らかとなった。
結論 民生委員は,介護保険を利用していない高齢者が受けている虐待や,短時間の関わりでは把握が難しい心理的虐待についても把握していた。この事実は,民生委員が高齢者虐待の発見者として役割を果たす可能性を示唆するものであり,同じ地域に在住する住民として虐待者や被虐待高齢者と密な関係にあり,介入者としての役割も担うことができると推察された。民生委員のジレンマを解消するためには,高齢者虐待防止のネットワーク化によって民生委員の役割を明確にすること,民生委員への支援環境の整備が求められている。さらに,民生委員を含めた地域住民の活躍の場を広げるためには単なる知識提供の啓発活動ではなく,地域住民自らが主体的に虐待防止に係われるようなコミュニティ全体の活性化が必要である。

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© 2008 日本公衆衛生学会
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