日本公衆衛生雑誌
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重度知的障害者施設入所者における生活行動と口腔状況 要歯磨き介助者と歯磨き自立者に関する比較分析
千綿 かおる武田 文
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2007 年 54 巻 6 号 p. 387-398

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抄録

目的 1)重度知的障害者施設入所者のうち歯磨き介助を受けている者と受けていない者とで生活行動と口腔状況の違いを明らかにする。
 2)歯磨き介助を継続して受けてきた者,受けていなかったが受けるようになった者,全く受けてこなかった者,それぞれの生活行動と口腔状況の経年変化を明らかにする。
方法 重度知的障害者施設 1 箇所の入所者のうち1994年 7 月と2003年10月ともに歯科健診をした44名を対象とし,各年度の日常生活行動,口腔保健指導時行動,歯科健診時行動と口腔状況に関して,歯磨き「介助群」と「自立群」とで群間比較を行った。さらに「両年介助群」「自立から介助へと変化した群」「両年自立群」のそれぞれについて経年変化を分析した。
結果 1)1994年・2003年の両年度とも歯磨き「介助群」は「自立群」に比較して多くの日常生活行動に介助を受けていた。「介助群」のうち歯磨きのできない者の割合は1994年には100%を占めたが,2003年では36.4%であった。歯科健診時行動に関しては1994年では全項目において「介助群」と「自立群」間で有意差が見られたが2003年では差が見られなかった。一方,口腔状況に関しては,1994年では両群間は差が見られなかったが,2003年では「介助群」は「自立群」よりも有意に喪失歯が少なく残存歯が多かった。
 2)各群における 9 年間の経年変化をみると,生活・行動面では「両年介助群」と「自立から介助へと変化した群」は日常生活の入浴に介助を要する者の割合が増えたが,「両年自立群」はいずれの生活・行動にも有意な変化が見られなかった。口腔状況では「両年介助群」はう蝕歯のみ増えたのに対して,「自立から介助へと変化した群」と「両年自立群」はいずれもう蝕歯・処置歯・DMFT が増えて健全歯が減った。
結論 重度知的障害者施設入所者のうち1994年・2003年ともに歯磨き介助を受けている者は,受けていない者と比べて多くの日常生活行動に介助を要する者であった。9 年間で歯磨き介助の対象者は変化しており,自力で歯磨きのできない者から歯磨きができる者にも歯磨き介助が行われるようになった。9 年間歯磨き介助を受けてきた者は健全歯数が変化しなかったのに対し歯磨き介助を受けなかった者は健全歯数が減っていた。したがって自力で歯磨きができる者にも,今後何らかの形で歯磨き介助を検討する必要があると思われる。

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© 2007 日本公衆衛生学会
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