日本歯科保存学雑誌
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原著
歯根の肥大および湾曲を伴う上顎大臼歯の自家移植症例
呉本 勝隆前薗 葉月北川 蘭奈竹田 かほる新野 侑子松下 健太伊藤 祥作野杁 由一郎林 美加子
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2014 年 57 巻 6 号 p. 589-596

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抄録

 目的 : 歯の自家移植は1歯欠損に対する処置法の選択肢の一つであり, 天然歯にほぼ一致した組織学的・解剖学的構造の再生が得られ, 天然組織の保存を図ることができるという利点を有し, 良好な経過を示す臨床症例が多数報告されている. しかしながら, 移植歯のサイズや形態に制限があり, 症例選択の際には熟考を要する. 一般的に, 移植歯は移植自体の手技, および移植歯に対する根管治療の難しさから単根歯でかつ歯根の湾曲が小さい歯が用いられることが多いが, 今回は歯根の湾曲が著しい上顎右側第三大臼歯を上顎左側第二大臼歯部に移植し良好に経過している症例について報告する.
 症例の概要 : 患者は37歳男性. 以前より体調不良時に上顎左側第二大臼歯の違和感を覚えていたが, 頰側および口蓋側に腫脹を認め来院. 来院時, 上顎左側第二大臼歯頰側および口蓋側に瘻孔を形成していた.
 治療経過 : 補綴物を除去すると髄床底に破折を認め, 保存困難と診断した. 患者より上顎右側第三大臼歯を用いた移植を希望する申し出があり, 上顎右側第三大臼歯には術前のコーンビームCT (CBCT) による診査で歯根の肥大・湾曲を認めたものの, 移植可能と判断し移植歯として用いることとした. 上顎左側第二大臼歯を抜歯し, 同日に上顎右側第三大臼歯を抜歯し口腔外にてNi-Tiロータリーファイルを用いて根管治療を行い, 上顎左側第二大臼歯部に移植し固定した. 移植歯の固定は1カ月後に除去し, 支台築造および暫間被覆冠の作製を行った. 移植後6カ月経過時に歯周組織の安定を確認したうえで, 最終補綴物を作製した. デンタルエックス線写真において, 移植歯周囲歯槽骨および歯槽硬線の回復が認められ, 現在術後1年以上経過しているが, 経過は良好である.
 結論 : 本症例では, CBCTによる術前診査の後に歯根の肥大および湾曲が認められる上顎大臼歯の自家移植を行い, 良好な結果が得られた.

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