2016 年 45 巻 4 号 p. 161-165
症例は55歳男性.労作時呼吸困難の精査で紹介され,不完全型房室中隔欠損症,僧帽弁閉鎖不全症,卵円孔開存,心房細動,漏斗胸と診断された.漏斗胸を合併した心臓・大血管手術では,術中の良好な視野と術後の安定した血行動態を得るために,心疾患に対する根治術とともに胸郭形成術を一期的に行うことが望ましいとされている.本症例では,自己心膜パッチによる房室中隔欠損孔閉鎖術,クレフト縫合による僧帽弁形成術,卵円孔の直接縫合閉鎖,メイズ手術変法を行った後,閉胸時にRavitch変法による胸骨挙上術を施行した.術後は人工呼吸器による長期の呼吸管理を要したが,徐々に呼吸状態は安定し,術後17日目に抜管した.長期挿管に伴う嚥下障害を併発したが,嚥下リハビリテーションにより嚥下機能は改善し,その後の経過は順調で術後59日目に退院した.本症例では,皮下剥離範囲の広さ,出血量増大のリスク,胸骨肋軟骨複合体の血流維持や感染リスク等の問題を考慮し,胸郭形成には胸骨翻転術ではなくRavitch変法による胸骨挙上術を選択した.心疾患を合併した漏斗胸に対して,胸骨挙上術を併施することで,良好な術野と術後の安定した循環動態が得られると考えられた.