日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
パネルディスカッション1:フィールド医学からみた地域在住高齢者の健康
6.ヒマラヤ・アンデス高所在住高齢者におけるうつ病
石川 元直山中 学中嶋 俊諏訪 邦明松田 晶子中岡 隆志奥宮 清人松林 公蔵大塚 邦明
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2013 年 50 巻 3 号 p. 330-334

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抄録

目的:うつ病は高齢者に最も多くみられる精神疾患の一つであり,高齢者のQuality of Lifeに悪影響を与えているが,有病率は地域によってばらつきが大きい.アメリカでは高所での自殺率が高く,一因として低酸素環境とうつ病の関連が指摘されている.しかしアメリカ以外でも同様の傾向があるかはまだわかっていない.そこで私たちはヒマラヤ・アンデスの高地在住の高齢者のうつ病の調査を行うことを目的とした.方法:私たちは2009年7月~2011年7月にインド・Ladakh地方のDomkhar村とChangthang高原,中国青海省玉樹,ペルー山間部のPuycaおよびChurcaを訪問した.それぞれ本調査に同意の得られた地域住民114人(平均年齢69.2歳,女性58.8%),206人(平均年齢55.1歳,女性43.7%),173人(平均年齢66.5歳,女性61.3%),103人(平均年齢69.0歳,女性68.0%)を対象とした.参加者全員に対し,身体診察や血液検査などの一般内科健診の一環として,Patient Health Questionaire-2(PHQ-2)を用いてうつ病のスクリーニングを行った.PHQ-2の1項目以上が陽性であった住民に対し専門医が半構造化面接を行い,うつ病の有無を診断した.結果:PHQ-2の1項目以上陽性であったのはDomkhar村で7.0%,Changthang高原で5.3%,青海省で36.9%,PuycaおよびChurcaで15.5%であった.これらの住民に対して専門医が面接したところ,DSM-IVの大うつ病性障害の診断基準を満たしたのは,それぞれ2例(1.8%),4例(1.9%),4例(2.3%),3例(2.9%)であった.うつ病発症の原因として,他地域と同様,近親者との死別や健康の問題といったライフイベントの存在が挙げられた.結語:ヒマラヤおよびアンデスの高地在住の高齢者のうつ病有病率はいずれも低く,有病率が低い一因として宗教,家族・地域の結びつきなどの文化的要因が考えられる.

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© 2013 一般社団法人 日本老年医学会
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